今回は、始めてのゲストポスト。その作者は、Rさんで、五年近く東京で住んでいた友達です。5月に東京を離れた時に、いわゆる国に帰る時に、「思いでにもなるので、東京の暮らしについて文章を書いてくれないかしら?」と彼女にお願いしました。原稿を書いてくれたので、さっそく皆さんにご紹介させていただきます。
Rさんは、中華系東南アジアのアラサの女性です。仕事のために来日して、私と同じ業界で働いています。仕事上のイベントで始めて出会って、数年をかけて友達になりました。友達になったのも、東京のおかげだと言えるのでしょう。
以下は、ゲストポスト。

R、2018年6月
940万人の人口(2018)を上回る東京都。5年近く住んでいて、すっかり馴染んできた滞在先。
940万人を上回る人口を持っている「東京」は、広い。そして23区以外、首都圏のエリアが更に広がる。なので、これからの話が「私の経験範囲内の東京」として断っておく必要がある。春に会った、都内出身の知り合いから「ヤンキー区」として知られている足立区や北区の話を聞いて少しびっくりした。文京区、新宿区と港区(その知り合い曰く「おしゃれ区」)にしか生活していなかった自分が、そんな現象があると思わなかった。
どこだって「裏面」はあるのよと、知り合いも指摘してくれた。確かに。東京での生活を反省してみたら、おしゃれな都市空間に住んでも、その全体像を考えればそれを美化してはならないという結論にたどり着いた。 通勤ラッシュの人間ぎゅうぎゅうのホームと車内に立って眩暈や窒息になりそう。 都市空間の生活を維持するには、膨大な電力、水資源、長時間低賃金の労働力を容赦なく費やす。その資源はどこから来るのも、そのコスト(いろんな意味での)を考えてみたら憂鬱になるだろう。しかし、そんなことを今ここで論じれば、別のエッセイになってしまうので、とりあえずここでその問題の存在を認める前提で、それでも東京が好きな個人の考えを述べたいと思う。

海外メディアでは、東京は非常にハイテクでクールとシックを溢れているかっこいいイメージでよく描かれる。注目を集めるものとして、みんなが喜んでしょっちゅう録画する、渋谷のスクランブル交差点。原宿系や下北系、初音ミクやキャリーぱみゅぱみゅなど、若者の現代ファッションや音楽の聖地。美術、ミシュラン級のグルメ料理店を備え、ハイスペックなモダン都市―それは、東京に纏わる「憧れ」の気がする。
私もそういう「東京」に憧れていた。でも、自分の場合、その憧れの由来は以上に述べたこととあまり関係ない。私はただ、清潔で、秩序が整った空間が好き。日常生活が簡単に、心地よく行える場所。だから東京が好き。コンビニの24時間の明かり。時間通りに来てくれる、シートクッションのあるバスと電車。乾いた喉を潤すために無言に街角や壁に待っている自動販売機。自転車、徒歩ですべてができる生活圏。「便利」と「心地よさ」を重視する、一人暮らしがしやすい街。アラサーの独身にとって贅沢なほどに。シンガポール生まれ、米国に10年近く滞在していた私としては特にそのすべてが眩しかった。
君は人生に対する「夢」をもっていないねと、誰かに呆れても反論しにくいだろう。それでも、この気持ちは動じない。確実に、日常的なニーズと癒しが得られるところって、素晴らしいと思わない?だって、世界中のほかの大都市に行っても、それが必ずしもできまい。こじんまりした路地裏に秘められ、あるいは商店街に堂々と並んでる飲食店、カフェ、八百屋、雑貨屋という多様多彩のお店。東京で食べれる料理の選択肢は無尽と言ってもいい。世界中の料理だけではなく、日本国内の地域料理も楽しめる。ご近所の小さいカフェ、デパート料理店とチェーン店だって侮るなかれ。根津、早稲田、田町あたりに住んだ私は、食事の選択肢に困ったことはなかった。ちっぽけな、農業のない島に生まれたので、美味しく食べれる「国産」の青果やお肉、穀物などに対して憧れやまない。
様々なお店の中、本屋が特に心を躍らせた。例えば、早稲田の街で初めて出会ったAyumi Booksさん。名門大学の隣にあるだけあって、学術本やノンフィクションの選択が充実しつつ、占いガイド、雑誌、文房具、ハンカチ、ロック・パズルなど面白いおかしな商品も揃えている。「本」に限らない品物の豊なセレクション。あてもなく入ってしまったら、うっかり一時間が過ぎてしまう経験がなんどもあった。 神保町の古本屋さんをめぐって、カレーを食べに行くのも好きだった。

そもそも、東京に引っ越してきて住んだことが、自分も知らないうちにできた夢だった。今時陳腐の話になっただろうが、私も日本のコンテンツ産業(とくに、「美少女戦士セーラームーン」)に心酔したグローバル大勢の一人です。ドラマや漫画、アニメで見ていた東京の風景にずっと憧れていたと思う。 実際に東京に来て、「観光客」としてではなく「住民」としての生活が始まったら、とても嬉しかった。最初の半年ぐらいは浮かれたとも言っていい。それは、「ものがたりの中の非日常」から「日常」になってきた東京の街並みに暮らしているからだった。港区に住んで、夜になると朱色に光る東京タワーを帰りの途中で見ていつもうきうきになっていた。春の夜の上野公園にジョギングに行き、街灯に灯された桜の木が幻想的だった。写真できれいに映せない、日常の中の非日常がささやかな楽しみだった。
ここ数年に、東京メトロが「Find My Tokyo」の宣伝シリーズを駅内のポスターや電車内のビデオでやっていた。現に石原さとみが出演してるシリーズも気に入りますが、前に堀北真希が出演したシリーズがとても印象になった。堀北さんの淑やかで美しい姿が東京の街を鮮やかに映してみせて、駅や電車内にポスターを見るたびに漠然と幸せな気分に訪れられる。東京メトロ、うまい営業してるなあと感心した。
5月に帰国したから、この箱庭ごときの東京ドリームがとうとう終わってしまった。次に東京に暮らせる機会があれば、もっと大胆にこの「心のふるさと」を探検して、もっとたくさんの楽しみを見つけ、もっと地元の友達のお話しを聞いて、より一層このメトロポリスを堪能しようと決めた。